ケルクショーズ・イリヤ 3号店(Quelque chose, Il y a - troisième)

Il solito tran tran(でも明日は何か新しいことを考えるだろうか……)

調製(preparation)で考える小説のつくりかた、その作品のゴールは「真黒」なのか「鉄黒」なのか「漆黒」なのか

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 あなたの作品は、真黒だろうか、鉄黒か、漆黒か、墨色か、ブルーブラックか、ロイヤルブルーか、オイスターグレーか、濃紺か、藍濃か、黄緑か、赤紫か。

 

 プロになってから、プロの仕事というのは何かと考える日が多くなった。そのひとつのアイデアとして、「色の調製」というものを思いついた。

 

 「調製」という概念はむずかしいかもしれないが、複数の原料などを測定したり調合したりして要請された完成品を実現することである。英語だとシンプルに「preparation」なので、やや理解の助けにはなるかもしれない。

 

 例えば、「作品のリアリティ」という分析項目があったとして、それにもいろいろな調合がある。冒頭の画像では、「Reality/理屈や想像ではないものに基づいた領域」と「Truth/正しいと思われているものだけに基づいた領域」と「Verisimilitude/本当・本物のように見えるものに基づいた領域」の三つの原料に分けた。

 

【作品のリアリティにおける三つの原料】
Reality:理屈や想像ではないものに基づいた領域。
――実体験とか、実生活とか、実在の話とか、実物とか、実社会とか、実情とか。

Truth:正しいと思われているものだけに基づいた領域。
――事実や事象のなかでも正しいと思われているものの集合(歴史とか知識とかたくさんの証拠など)。

Verisimilitude:本当・本物のように見えるものに基づいた領域。
――「オタク=早口」のような共有されている「らしさ」など。本人っぽいなとか、事実らしいなと思ってしまう真偽を揺さぶる個人的な重大点。

 

 どんな作品にしたいのかによるが、ほとんどのひとはすべてが混ざった「黒」で作ろうとするだろう。しかし、先に尋ねたように、その黒が「鉄黒」なのか「真黒」なのかでは調製方法が異なる。

 

 世に溢れた小説創作論というのは、優れたものであれば「黒」までの調製方法を教えてくれるかもしれないが、その黒を「鉄黒」に調製する方法は教えてくれない。「漆黒」に調製する方法は教えてくれない。というか、そんなの、無理だ。

 

 知り合いの新人ラノベ作家は、とあるSF作家の大先生のところで修行している。私も同様でとある先生のところで学ばせてもらっている。そこでがんばって調製技術を盗もうとしないと、いつまでたってもせいぜい「黒」しか調製できないと確信した。

 

 上の図で言えば、私が得意なのは「黄色(Truth:知識)」「青色(Reality:実生活)」の部分である。これを黒色に持っていくために、デビュー作ではお店モノを題材に選んで、舞台をメイド喫茶にした。メイドらしさとか、お店らしさというものは演出しやすい。西尾雄太先生のイラストにも大変お世話になった。

 

 私はそこで満足してしまった。応募まで時間がなかったというのもあるし、受賞後の推敲も焦りまくってたというのもある。そもそも推敲というものを知らなかった。字数やシーン数を増減させたり、事実確認をしたり、校正したりするだけで終わってしまった。ほんとうなら、そこでどんな「黒」に調製したかったのか再考し、そのための注文書(地図)を書き直して、原料の再調合をすべきだった。

 

 まずはどんな「黒」が描きたいのか考える。その黒は緑がかっているのか、青っぽいのか、それとも三つの原料のバランスがとれた真黒なのか。どんな比重を愛しているのか。どんな比率を求めているのか。じぶんとの対話が足りない。